マウスピース矯正の
リスク・副作用
矯正治療にはリスクと副作用があります。このページではマウスピース矯正のリスクと副作用、そしてリスクを低減するための対策について説明します。
痛み・違和感
どんな痛み?どんな違和感?
マウスピース矯正は2週間に一度の頻度でマウスピースを交換していきますが、新しいマウスピースの装着後に圧迫されるような痛みを感じることがあります。装着後2~3日ほどたつと気にならない程度の痛みになっていくことがほとんどです。
痛み・違和感の原因
マウスピースの装着中は、歯に矯正力がかかっています。その矯正力により歯根膜(歯と歯槽骨の間のクッション)が圧迫され、歯根膜が軽い炎症を起こします。歯根膜には多くの神経が存在しているため痛みを感じます。
歯根吸収
歯根吸収ってなに?
歯根吸収とは、歯の根っこが短くなる現象です。歯根吸収は奥歯よりも前歯に起こりやすく、矯正治療をおこなうと少なからず発生します。重度の歯根吸収はグラつきや脱落の原因になってしまいます。
歯根吸収の原因
原因は過剰な矯正力です。詳しく説明します。
歯に矯正力が加わると、歯根膜(歯と歯槽骨の間のクッション)の片側が圧縮され(圧縮側)、反対側が引き伸ばされます(牽引側)。
圧縮側では、歯槽骨に「破骨細胞」と呼ばれる細胞が集まり歯槽骨を吸収します。(このプロセスによって歯は新しい位置へ移動していきます。)
しかし圧縮が過剰であったり長期間続いたりすると、歯根膜の細胞組織が酸素不足・栄養不足に陥って壊死します。すると歯根膜はクッション機能を失い、歯根と歯槽骨が異常な圧力を受けることになります。これによって破骨細胞は異常に活性化し、歯槽骨のみならず歯根表面にも作用しはじめます。結果、歯根吸収が起こるのです。
とはいっても「過剰な矯正力」がどの程度なのかを数値化するのは難しく「これ以上負荷をかけなければ起こらない」という安全数値のようなものがあるわけではありません。それゆえ歯根吸収を100%防ぐことは困難で、少なからず起こってしまいます。
多少の歯根吸収であれば問題ないことがほとんどです。大事なのは、兆候を発見したときの対処です。
定期的に歯の動揺をチェックし、計画を補正します
当院は矯正治療中に定期的に歯の動揺をチェックしています。歯根吸収の兆候が見られる場合は治療計画を補正し、もう少し弱い力で時間を矯正するようにマウスピースを作り直します。
ブラックトライアングル
ブラックトライアングルとは?
ブラックトライアングルとは、歯と歯の間に生じる三角形の隙間のことです。矯正によって生じることがあります。
ブラックトライアングルの原因
捻転(ねんてん・不正に回転)していた歯を正しい位置に移動することによって歯の接触点が変わり、歯間乳頭(歯と歯の間の歯茎)が適切に埋まらなかった場合に生じることがあります。特に前歯に起こりやすい現象です。
歯が三角形に近い形をしていたり、歯周病で歯茎が下がっていたり、歯茎が薄い人の場合は症状が出やすい傾向にあります。
また矯正治療のスピードが速ぎると歯茎が新しい位置に適応する時間が十分に取れず、出現することがあります。
歯と歯茎の形状を考慮してリスクを低減します
治療計画の段階で歯茎の状態や歯の形状を考慮し、ブラックトライアングルのリスクを最小限にできるよう努めています。
もしブラックトライアングルが出てしまった場合、歯肉移植で歯茎を形成する治療もおこなっています。心配な方はご相談ください。
IPR処置による
歯の形状変化
IPRとは?
IPR処置とは、歯と歯の間のエナメル質をわずかに削る処置のことで、歯の整列スペースを確保するための処置のひとつです。
通常、処置中に痛みを感じることはありません。
どれくらい削る?
形はどう変わる?
削る量は0.1~0.6mm程度とごくわずかです。削ることによって三角型の歯がわずかに四角く変わりますが、元の形より美しく整うことがほとんどです。
なお、IPRは前述のブラックトライアングルを防ぐためにも必須の処置です。
差し歯移動による
根っこのひび割れ
症状と原因
矯正によって差し歯の根っこにひびが入ったり、折れたりすることがあります。原因は「差し歯の土台が根っこに過剰な負荷を与えるから」です。詳しく説明します。
神経を抜いた差し歯の「被せ物」の内側には、「土台(コア)」というものがあります。(下図)
ここで被せ物にマウスピースで矯正負荷をかけると、その矯正力は「土台」にも伝わります。歯の根っこは硬い土台に圧迫され、過度な負荷がかかります。(下図)
歯の根っこは「過去の根っこ治療」で薄くなっていますし、神経がないため柔軟性も失っています。また根っこと土台の間には歯根膜のようなクッションもありません。それゆえ根っこは強い負荷に耐えられなくなり、ひび割れしたり、折れたりしてしまうことがあるのです。(下図)
差し歯の矯正なら
私にお任せください
当院は差し歯矯正を多数経験しているクリニックです。差し歯がある場合は、治療方針の選択肢をしっかり説明したうえで、患者さんと相談のうえで方針を決定するようにしています。
方針1:
差し歯は動かさず、
被せ物で形や位置を調整する
方針2:
差し歯の移動を控えて
軽度矯正で妥協する
方針3:
リスクをとって差し歯を動かし、
ダメなときはインプラントを併用する
方針4:
計画的に事前抜歯し、
インプラントを併用する
当院は「差し歯治療」と「インプラント」が得意なクリニックです。それゆえ通常の矯正歯科では困難な対処も可能です。差し歯があって不安な方はぜひご相談ください。
歯の脱落(抜ける)
非常に稀ですが、歯が抜けてしまうことがあります
非常に稀ですが、矯正によって歯が抜けてしまうことがあります。
歯周病が進行している状態で矯正した際や、差し歯の根っこが割れてしまったとき、歯根吸収が重症化した際に起こります。
あらかじめ
リスクの度合を説明します
脱落リスクの度合は事前の検査である程度わかります。初診診察時や矯正計画の説明時に説明しますので、じっくり検討するようにしてください。
万が一脱落してしまった場合は矯正後にインプラントで歯を補うことになります。その際は割引価格で治療をおこなっています。
歯の抜歯処置
(意図的に抜く)
歯の整列スペースを確保するため抜歯することがあります
不正咬合(悪い歯並び)の原因は、多くの場合「歯が整列するスペースの不足」にあります。顎の骨が小さい・歯が大きいといった理由でスペースが足りなくなることで、歯がガタガタに生えたり出っ歯になったりするわけです。そこで歯の整列スペースを確保するために意図的に抜歯をおこなうことがあります。
抜くのはどの歯?
通常は噛み合わせに参加していない「親知らず」か、審美性と噛み合わせへの影響がすくない「小臼歯(下図)」を抜くことが多いです。上下左右1本ずつ、計4本抜くことが一般的です。
虫歯・歯周病リスクの増大
なぜ、虫歯・歯周病リスクが上がるの?
通常ヒトの歯には唾液による殺菌作用が常に働いています。しかし矯正中はマウスピースが歯を覆ってしまうために唾液が通常通り作用しません。それゆえマウスピース装着中は歯に付着した虫歯菌が繁殖しやすくなります。これによって虫歯や歯周病のリスクが高まります。
虫歯や歯周病になると矯正治療はどうなるの?
矯正治療を一時中断し、虫歯・歯周病の治療をおこなうことになります。治療費は別途必要になりますが、保険が適応されます。
食事後は必ず歯磨きしましょう
マウスピース矯正中は、朝・昼・夕食の後に必ず歯磨きが必要です。虫歯・歯周病リスクを抑えるため、1日3回しっかり歯磨きしましょう。
虫歯・歯周病の兆候がないか、毎月チェックします
当院では毎月の定期チェックで虫歯・歯周病の兆候をしっかりチェックしていきます。万が一虫歯や歯周病になった場合は当院でしっかり治療します(保険適応)。ご安心ください。
マウスピース・チューイへの
アレルギー
どんな症状?
稀にですが、マウスピースやチューイ(マウスピースを装着する際に使うガムのようなもの)に対してアレルギーを発症することがあります。
口腔内の炎症や腫れ、痒みや発疹などの症状が現れます。
対策
症状が出た場合は使用を中止し、クリニックにご連絡ください。また、歯科用印象材(アルジネート)やプラスチック、シリコン系材料でアレルギー反応を起こしたことがある場合は、治療前に必ずお申し出ください。
顔貌の変化
出っ歯矯正による人中の伸び
前方に傾斜・突出していた前歯を押して引っ込めることで、人中の傾斜も緩やかになります。これによって皮膚が余って見えたり、人中が長く見えることがあります。
(上下顎前突を矯正した際は口ゴボが解消してすっきり整うことが多く、必ずしも悪い方向に変わるわけではありません。)
歯列弓拡大による頬の張り
歯を整列するために歯列弓(歯並びのアーチ)を横に広げるような矯正をおこなった場合、頬が外側に広がることがあります。
V型歯列弓の改善による前歯の突出
矯正スペース確保のためにV字型の歯列弓をU字型に矯正すると、左右2番・3番が前方に突出し、出っ歯になったような印象になることがあります。(下図)
通常当院ではこのようにな印象にならないよう、前肢6本を全体的に後方移動させたり、抜歯によってスペースを作ったりしています。
重度叢生の抜歯矯正による頬コケ
重度の叢生(そうせい・デコボコ歯)歯並びを改善する際、上下8本を抜歯して矯正することがあります。この場合、もともとかなり外側にはみ出していた歯を内側に整列させることになるため、頬が内側に落ち込んで頬コケすることがあります。また皮膚が余ってほうれい線が目立って見えることがあります。
顎を使わなくなることによる頬コケ
矯正中は痛みや違和感のために硬いものを食べるのを忌避したりすることがあります。すると顎の筋肉が衰えて頬コケしたような印象になることがあります。
こうした理由による頬コケは矯正終了後に問題なく元どおりになります。
過蓋咬合の改善による面長化
過蓋咬合は上の歯が下の歯に過剰に覆いかぶさっている状態です。この歯並びを改善することによって面長な印象になることがあります。
噛み合わせの高さが変わることで面長になる。
顔貌変化が気になる方は
ご相談ください
顔貌変化が気になる方はご来院時に私にご相談ください。患者さんの歯並びを診たうえで、どのような顔貌変化のリスクがあるかお答えします。
矯正後の後戻り
リテーナーを装着しましょう
矯正治療の終了後に歯並びが元に戻っていくことがあります。矯正終了後にリテーナーという維持保定用のマウスピースをお渡ししますので、しっかり装着して後戻りを防ぎましょう。
矯正中の注意事項と
診療内容について
矯正中はどれくらいの頻度でクリニックに通うのでしょうか?クリニックでどのような処置をおこなうのでしょうか?普段の生活にはどのような制約が出るのでしょうか?次のページで詳しく解説していきます。
痛いときは市販の痛み止めを服用しましょう
市販の痛み止め(例:イブプロフェンやアセトアミノフェン)を使用することで、痛みを緩和することができます。